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2006年08月21日

主題:「プラチナム」と「XLT」

副題:アニロックス彫刻開発レポート

本稿では、米国のアニロックスメーカー、ハーパー(Harper Corporation of America)が2002年に発表した「プラチナム(Platinum)」アニロックスロール、および2005年に発表した「プラチナムXLT(Platinum Xtreme Laser Technology」アニロックスロールについて述べる。

「プラチナム」の開発経緯

アニロックスロールはフレキソ印刷をフレキソ印刷たらしめる特徴的かつ重要な部位である。印刷再現における色濃度は、使用するアニロックスのボリュームに因るところが大きい。

ボリュームとはセルから刷版、刷版から被印刷体へと転移するインキの皮膜厚を決定づける要素である。ただし、セラミックの表面積や表面張力、およびセルの深度/口径の比率によっては、いくらボリュームが大きくてもインキが効果的にリリースされなくなってしまう。つまり、セラミックの粒子が粗かったり、多孔性が高いために表面積が広く、表面張力が高いセラミック表面のセルと、平滑で表面積が小さく、表面張力が低いセルでは、当然リリースされるインキ量に差が出る。

同じ800線、1.80BCM/in2(2.8cm3/m2)のアニロックスでも、セル深度10ミクロン/セル口径33ミクロン/セル壁厚3ミクロン(深度/口径比30%)のアニロックスと、セル深度15ミクロン/セル口径30ミクロン/セル壁厚6ミクロン(深度/口径比50%)のアニロックスロールではインキのリリース量が異なる(図1、図2参照)。加えて、後者のアニロックスは深度が深すぎるために洗浄でインキが落ちにくく、そのため作業効率が下がるという欠点も挙げられる。セルの深度/口径比は、深すぎると上記のようにインキ転移効率が悪くなったり洗浄効果が下がったりする。反対に、浅すぎると今度はセルを均一に彫刻しにくくなる(図3参照)。このように、深度/口径の比率は極めて重要な要素である。

図1:深度/口径比30%のセル。深度/口径比は23%-33%の範囲内が最もインキリリース効率が良く、望ましい。

図2:深度/口径比50%のセル。刷版への転移時にインキが底に残りやすく、洗浄効率も悪い。

図3:深度/口径比15%のセル。彫刻時に均一性が出しにくい。

ハーパーでは早くから上記2要素について研究を重ねてきた。2要素のうち、深度/口径比は23%から33%の間がインキのリリースが良く、かつ洗浄効果も得られやすい理想として推奨してきた。しかし、セラミック表面の平滑性を向上させるという課題については紆余曲折があった。

当初、彫刻後のコーティング(ポリマー等)に関する研究を続けたが、どれも摩耗や薬品への耐性といった面から十分な結果が得られなかった。そこで、2001年にレーザーの発生装置と照射方法、およびセラミックの材料とレーザーとの反応特性に主眼を移して研究を続けた。こうして誕生したのが「プラチナム」アニロックスロールである。

「プラチナム」アニロックスロールのセラミック表面

具体的には、「プラチナム」アニロックスロールは、独自に開発したジェネレータによる連続波(CW)炭酸ガスレーザーを用いる。このレーザーは出力が200ワットとYAGレーザーやサーマルレーザーよりも強い。また、セラミックの溶射工程と研磨工程も研究を続け、硬度1500-1700ビッカース/多孔性0.5%と非常に硬くて多孔性の低いものが得られるようになった。「プラチナム」アニロックスロールは、独自開発によるレーザーを独自開発のセラミック表面に当てることで微量元素の反応を生じさせる彫刻技術である。「プラチナム」は先行の「エコセル(EchoCel)」よりも最大で60%強くセラミック表面を「焼く」ため、セル表面の平滑性が向上してインキが目詰まりしにくくなる。その結果、インキリリース量が最大で15%増加し、正常なセルボリュームをより長く維持することができ、同時にインキの洗浄効果が上がるのである。図4参照。

図4:左は「プラチナム」アニロックスのセル表面。右は先行「エコセル」アニロックスのセル表面。350倍拡大写真。「プラチナム」ではセラミック表面の平滑性が向上してインキリリース性が改善されている。

「プラチナム」アニロックスロールでは、彫刻後のコーティングを必要とせず、また通常のアニロックスよりも表面の色が明るいため、肉眼で洗浄効果を容易に確認できる。また、インキリリースが効率的に行われるため、目詰まりとヤレの減少により、インキの無駄と被印刷体の無駄を少なくすることができる。また、セラミック表面の平滑性が向上したことにより、ドクターブレードの磨耗が減り、同時にブレードの寿命が延びて交換頻度が少なくなる。

ドクターブレードの磨耗

ドクターブレードの寿命については、角度や圧など、変動要因を確定、かつ同条件下でのテストが困難であったため、同じ 線数、ボリュームで半分が「プラチナム」彫刻、もう半分が「エコセル」彫刻のアニロックスを特別につくり、1本のドクターブレードを用いてテスト評価を行った。

図5:「プラチナム」によるブレード磨耗(左)と「エコセル」によるブレード磨耗。いずれもステンレス鋼。400倍。右の写真を見るとアニロックスとの接触部分でブレードの材質がささくれ立っていることが見て取れる。

FIRST規格におけるアニロックスロール

ここで、米国フレキソ技術協会が提案しているFIRST(Flexographic Image Reproduction Specifications & Tolerances)規格では、アニロックスロールの仕様についてどのように触れられているかを見てみたい。

FIRST規格はデザイン、プリプレス、プレスの工程ごとにエキスパートが集まり、米国フレキソ技術協会主導のもとにミーティングを重ねてフレキソ印刷における各変動要因で適用すべき仕様と許容範囲(ただし業界標準ではない)を定めたものである。FIRST第3版では、各要素について以下のように定めている。

  • 線数とボリューム
カテゴリ
ジョブの種類
線数(LPI)
ボリューム(BCM)
線数(LPCM)
ボリューム(cm3/m2)
軟包装
150-175lpiプロセスカラー
800-900
1.4-2.0
315-355
2.2-3.1
120-133lpiプロセスカラー
650-750
1.8-2.5
255-295
2.8-3.9
85-110lpiプロセスカラー
500-600
2.2-2.9
195-235
3.4-4.5
平アミ/文字
360-440
3.2-4.2
140-175
5.0-6.5
線画/文字
300-360
4.2-5.5
120-140
6.5-8.5
線画/ベタ
250-330
6.0-7.0
100-130
9.3-10.9
ベタ
200-300
7.3-8.0
80-120
11.3-12.4
広範囲のベタ/白打ち
180-220
9.9-10.0
70-90
15.3-15.5
ラベル
150-200lpiプロセスカラー
800-900
1.4-2.0
315-375
2.2-3.1
120-133lpiプロセスカラー
600-800
1.5-2.0
235-315
2.3-3.1
100-110lpiプロセスカラー
500-600
2.0-3.0
195-235
3.1-4.7
平アミ/文字
500-600
2.5-3.5
195-235
3.9-5.4
線画/文字
360-440
3.5-4.5
140-175
5.4-7.0
線画/ベタ
300-400
4.5-7.5
120-160
7.0-11.6
ベタ
300-360
5.0-6.5
120-140
7.8-10.1
広範囲のベタ/白打ち
200-250
7.2-8.7
80-100
11.2-13.5
段ボール
110-120lpiプロセスカラー
440-550
2.0-3.5
175-220
3.1-5.4
85lpiプロセスカラー
360-440
3.0-3.5
140-175
4.7-5.4
線画(ツーロール)
250-330
5.5-6.0
100-130
8.5-9.3
線画(ドクターブレード)
250-300
6.5-7.8
100-120
10.1-12.1
ベタ(ツーロール)
200-250
6.5-7.8
80-100
10.1-12.1
ベタ(ドクターブレード)
200-250
8.0-9.0
80-100
12.4-14.0
ニス
200-250
7.8-12.0
80-100
12.1-18.6
マルチウォールバッグ
100-120lpiプロセスカラー
440-550
2.0-3.5
175-220
3.1-5.4
85lpiプロセスカラー
360-440
2.5-3.5
140-175
3.9-5.4
線画(ツーロール)
250-330
4.5-6.0
100-130
7.0-9.3
線画(ドクターブレード)
250-300
4.5-9.0
100-120
7.0-14.0
ベタ(ツーロール)
200-250
4.5-8.0
80-100
7.0-12.4
ベタ(ドクターブレード)
200-250
4.5-9.0
80-100
7.0-14.0
ニス
200-250
6.5-12.0
80-100
10.1-18.6
  • 彫刻角:30°、45°、60°などがあるが、30°および60°が望ましい
  • ボリューム測定方法:1.)セル深度から計算、2.)液体での測定方法、3.)スキャニング干渉分析法
  • セルボリュームの許容範囲:±5%とする
  • 刷版の線数:アニロックスの線数は最低でも刷版の線数の4倍とする
  • TIR(真円精度):65”(1,651mm)幅以上 ±0.001インチ(0.025mm)65”(1,651mm)幅以下 ±0.0005インチ(0.013mm)

「プラチナムXLT」の開発経緯

さて、次に「プラチナムXLT」に関して述べていきたい。前述のとおり、「プラチナム」はアニロックスロールの彫刻技術として革新的なものであった。ただ、レーザーの周波数によっては焦点距離に限界があるなど、克服すべき課題もあった。

  • 半球形のセル形状。磨耗が生じてもボリュームが減りにくいよう、セル形状を円柱形にしたかった
  • 現状の線数範囲でより大きなセルボリュームを実現すること。さらに、レーザーの波長によってさらに高い線数を彫刻可能にすること
  • 焦点距離の感度とレーザービームの透明度

「プラチナムXLT」彫刻技術

「プラチナムXLT」アニロックスロールには、具体的に以下の特徴が挙げられる。

  • セル壁の落ち込みがより鋭角になり、アニロックスが磨耗してセルが浅くなっても高いインキボリュームをより長く保つことが可能である。図6参照
  • 「プラチナム」同様、レーザー彫刻の際にセラミックをより強く焼くことでセル表面の平滑性が向上する
  • 線数とボリュームにおいて、「プラチナム」の彫刻能力を上回った。現時点では、50-3500線の彫刻が可能である。また、高い線数でも大きなボリュームが実現可能である
  • 独自のデジタル技術を用い、レーザービームの透明度と焦点が改善された
  • エンジニアチーム(10名、レーザーや印刷のエキスパート)がシステムを追求し続けている

図6:左はYAGレーザーによる彫刻のセル。右は「プラチナムXLT」のセル。

「プラチナムXLT」一次磨耗試験

ハーパーでは「プラチナムXLT」の磨耗試験を行い、「プラチナム」との耐久性を比較した。初期試験はハーパーで行い、二次試験はフレキソコンバーターの協力を仰いで行った。ここでは、印刷機メーカーおよび市場セグメントを考慮に入れた。ここで重要となるのは、「プラチナム」と「プラチナムXLT」のセル形状の差異である(図7参照)。

図7:左は「プラチナム」のセル形状。半球形である。右は「プラチナムXLT」のセル形状。円柱形である。

試験条件

「プラチナムXLT」と「プラチナム」の磨耗特性の比較テストでは、チャンバーとステンレス鋼ドクターブレード(リバースアングル)を用いた。

この試験では、500線/3.5BCM(およそ5.3cc)仕様で、ロールの半分を「プラチナム」で、残りの半分を「プラチナムXLT」で彫刻したアニロックスを用いた。彫刻/後仕上げが終了したら、デジタルボリュームの確認を行った。この試験に費やす時間は78時間と決められた。合計78時間は、5時間、24時間、24時間、24時間、と区切った。この試験では短時間で磨耗が進むよう、特殊な設定と液体を用いてアニロックスを回し続けた。図8参照。

図8:「プラチナム」と「プラチナムXLT」のボリュームの差異は最大で2%であった。

 
試験前
5時間
29時間
53時間
78時間
プラチナム ボリューム
3.64
3.61
3.44
2.62
1.21
プラチナム 深度
15.72
15.29
14.9
13
8.32
プラチナムXLT ボリューム
3.72
3.53
3.49
2.77
1.26
プラチナムXLT 深度
15.69
15.3
14.79
13.2
8.4

データ数値を取る際、アニロックスの不特定の部位からボリューム数値を測定し、そこから平均値を算出した。結果、「プラチナム」との耐磨耗性の比較では、大きな違いは見られなかった。「プラチナム」とのボリューム値の違いは最大で2%だった。磨耗によるボリュームの減少は、「プラチナム」が66.78%の減少、「プラチナムXLT」が64.33%減少という結果であった。

「プラチナムXLT」二次摩耗試験

一次磨耗試験の次に、「プラチナムXLT」アニロックス100本を様々なコンバーターに使用してもらい、実生産現場における磨耗特性を試験することにした。ここでは、エンジニア、製造、品質、技術の各部門から専門家を集めてR&Dのチームを組み、「プラチナムXLT」の磨耗特性を数値化するためのSPC(統計プロセスコントロール)を決定した。ベータサイトでのテストモニタリングにはハーパーのグラフィックソリューションズ部門から人員が派遣され、毎週訪問してデータを収集した。

ここで集めた情報は以下のようなものである。

  • 線数(セル/インチ)
  • ボリューム(BCM)
  • 印刷機の種類
  • 印刷速度
  • インキの種類
  • ブレードの厚み
  • インキ転移方式
  • ベタインキ濃度

収集した大量のデータから、一次試験で出た結果を再度照らし合わせてみた。ベータサイトから収集したデータからは、「プラチナムXLT」に磨耗は見られなかった。ベータサイトでは極めて有効な洗浄が行われていたのである。ここでは、実際の印刷物上で濃度を測定して磨耗の検証を行った。図9参照。

図9

試験条件

収集した全データセットの中で2、3のベータサイトが極めて優れた磨耗特性を示した。ここでの目的は「プラチナムXLT」と「プラチナム」を比較することである。匿名のベータサイト「G」では、テスト期間中、一定の市場セグメントにおいて線画版およびコンビネーション版をずっと均一に印刷再現できていた。

まず、ベータサイトのアニロックス表面でボリュームを測定し、次にハーパーの技術ラボ内で採取したサンプルの測定を行った。

  • 印刷機の種類:センタードラム
  • インキ転移方式:ステンレスブレード 2枚
  • 印刷速度:700ft(213m)/分
  • ドクターブレード:0.008インチ(0.20mm)厚 ラディアス
  • ロット:25,000ft(7,620m)
  • アニロックスの線数(CPI):700CPI
  • アニロックスのボリューム:2.4BCM
  • 印刷方式:表刷り
  • 洗浄方式:機械式
  • インキ:溶剤インキ

まとめ

上記のデータを見ると、「プラチナムXLT」アニロックスと「プラチナム」アニロックスの磨耗特性と大きな違いはない。購入履歴を見ると、このベータサイトにおけるアニロックスの平均寿命は2.46年である。標準的使用法で1年間用いた後の「プラチナムXLT」アニロックスのBCM値は、使用前を100%とすると89.7%であった。1本あたりの平均寿命はわずかに延びたことになる。平均寿命が延びたのは、「プラチナムXLT」のセル形状が変化したためである。

「プラチナムXLT」濃度比較試験

ベータテストでは、バンデッドアニロックスを使用して各アニロックスのインキリリース特性を数値化した。ここでは濃度計測定により数値を出した。まず、「プラチナム」と「プラチナムXLT」を比較できるデータセットを作成した。図10参照。

図10

 
プラチナムXLT
プラチナム
線数(CPI)
500
500
濃度
2.2
2.18
ボリューム(BCM)
3.5
3.5

試験条件

ここでは、様々なベータサイトから情報を収集してデータセットがつくられている。セルの深度/口径の比率は30%を「最適」とし、企画段階からこれを採用する決定がなされていた。極端なセル深度/口径比率を用いたアニロックスもテストされており、これに対する評価は別に行う。以下の情報は、プロセスカラー印刷で様々な製品を生産しているベータサイト「H」のものである。

  • 印刷機の種類:インライン
  • インキ転移方式:リバースアングルドクターブレード
  • 印刷速度:250ft(76m)/分
  • ドクターブレード:0.008インチ(0.20mm)厚 ラディアス
  • ロット:2,000ft(609m)
  • アニロックスの線数(CPI):500CPI
  • 被印刷体:セミグロス
  • アニロックスのボリューム:3.5BCM
  • 印刷方式:表刷り
  • 洗浄方式:機械式
  • インキ:水性インキ

まとめ

多くのベータサイトから得られたデータセットを分析した結果、「プラチナムXLT」および「プラチナム」は極めて似通ったインキリリース特性を有することが結論として得られた。

最後に、本稿で言及したデータはハーパーから提供されたものにもとづいていることを明確にしておく。